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22/05/2005

国民の道楽

 80年代、「価値相対主義」の中でコドモだった私は、それをいいように解釈して育ったわけである。宮台真司はコドモ向きじゃないので、井上陽水だったけど。
 ともかくも、さまざまな社会問題と傘がないのは同価であるらしいと理解したわけで、価値観というのは自分のアタマの中にあって、他人のアタマやテレビの中にあるわけじゃないと思ってしまった。
 そうなると「世のため、人のため」というのは、実は、世や人にとって大きなお世話じゃないかという疑いも出てくるわけである。世なり人なりが、どういう価値観を持っているかを理解した上でのことなのか、自分の価値観をそのまま世の価値観、人の価値観だと思い込んでるだけというケースもあるかれないと考えることになる。
 もうちょい考えると、なぜ人を殺してはいけないのか、なぜ人のモノを盗っては行けないのかというのは、たぶん、日本の人は宗教的な価値観とか伝統的な価値観で考えているわけではないと思う。自分や自分の周囲の人が殺されるのは嫌だから、自分のものが盗られるのが嫌だから、という相対主義なんじゃないかと思う。だから、人を殺すように訓練するには、まず自分の命を粗末にすることを叩き込む必要があったんじゃないかと思う。
 だから「価値相対主義」の世の中では、お互いの「自分の価値」を尊重することが、社会の基本的なルールになる。
 そういう中で、私は道楽者を目指すことになる。道楽というのは、つまり、自分のアタマにある価値に正直であり、他人のアタマにある価値にちょっかいを出さないということである。道化者となるほどの才能はないし、道徳者というのは、他人のアタマにある価値観を理解する能力が必要とされ、極めて高度なコミュニケーション能力が必要とされるので難しい。同じような決意、というほどタイソウなもんでもないが、をした人は多いと思う。
 シアワセなことに、道楽をしていても生活に困るような社会ではなかったというより、ソコソコの生活でいいやと思うと、ソコソコの道楽は誰にでも出来る世の中であった。
 ただ、世の中には、コミュニケーションが苦手な人がいる。道楽を指向した人のうち、こういう傾向を持った人は「おたく」と呼ばれた。もちろん、道徳を指向している人にもコミュニケーションが苦手な人がいる。道徳を説くには他人の価値観を理解することが出発点になるのに、それをせず、自分の価値観を他人が理解できないのは、それが絶対的なものではないからだと気がつかず、社会がワルイとか、誰かの陰謀だと思いこむ人も出てくるわけだ。その点でも、道徳より道楽の方が健康的だ。
 「価値相対主義」の最大の成果は、道楽の普及にあったのじゃないかと思う。いまや日本の産業を支えているのは道楽だ。道楽を仕事にした人は、資本を労働者のものとすることに成功した人と言えるかも知れない。
 「価値相対主義」の中でも、やはり、絶対的というか共通する価値というのはあるわけで、例えばお金だ。その絶対的な価値を目標にしていながら、ついには中途半端にしか届かなかった人は、今頃になって道楽にあこがれているらしい。
 数年前まで、ネットの世界というのは道楽者の世界だった。シゴトになるようなコンテンツをタダで公開する人はいない。道楽で作ったコンテンツだがら、タダで公開できる。逆に言えば、道楽のない人は公開すべきコンテンツを持っておらず、生身の自分を切り売りすることになる。
 掲示板とかblogとかだと、誰でも書ける。私の場合は、まとまってコンテンツになるほどでない、日常の様々な道楽を小出しにしている。けれども、道楽がなく、生身の自分を切り売りすることもできない人の中には、他人のアタマにある価値を借りる人も現れる。そこで出てきたのが、適当な判断停止のための「道徳」だ。ある価値観に基づいたわけではなく、単なる空気というか、連帯感のためだけに「道徳」が復権した。
 道楽なんて、すごいのはすごいわけだが、ささやかなもんだってある、野球中継を見ながらビールを飲むのも立派な道楽だ。野球解説者のアタマを借りずに観ることが出来ればいい。
 世の中の価値が相対的だというは、もう後戻りはしないだろう。そういう中でコミュニケーションの苦手な人たちが共存するには、自分の価値観が相対的なものだと自覚できることが必要だと思う。そのためには、自分にしか意味がないと自覚できる価値を見つけることがひとつの方法だと思う。個人が道楽を確立することだ。
 国民の道楽の確立が望まれる所以である。

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