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04/12/2005

トンデモ芸

 以前に「アホとアホ芸」についてのエントリーで、バスのクイズを紹介した。
img051 この絵はバスです、どちらに走っているのでしょうというクイズがある。バスの扉は進行方向の左側にあるから、左に走っていることになる。
 このクイズに対し「絵に描いたバスが走るはずない。止まっている」と答える人はアホである。出題者も回答者もそんなことはわかっていて、描かれた絵という状況の中でのクイズであり、その状況を判断しなかったとして、何も面白くない。
 そういうアホに対して、「それでも地球は回ってる」と答えるのは、アホ芸と認められる。
 地球の自転や公転も誰でも知識として知っている。だから、地球が動いているなら、地球上の絵に描かれたバスも動いているということは理解できる。でも、日常の生活というのは、太陽が沈むと言ったり、普通は天動説を実感として感じて行われているわけである。そういう状況を判断しないことで、何より「絵に描いたバスが走るはずない。止まっている」のアホさを指摘するという効果があるからだ。
 「紙に描かれた内容」「日常的な実感の世界」「地球規模での科学的な認識」それぞれ次元が違うわけで、どの次元の論理なのかが判断できないのはアホであり、わかった上であえて飛躍するのは「アホ芸」なのである。

 「助六由縁江戸桜」。舞台には「花川戸助六」実ハ「曽我五郎時致」である。そして、実は「市川團十郎」で、実は「堀越夏雄」である。この4次元を行き来し、それを判って観るのが歌舞伎である。というか歌舞伎に限らず、芸能というのはこういう多重性を持ってるわけであり、その多重性が破綻していると作り手の予想もしていない評価が得られたりする。
 昔、田舎侍が舞台上の悪役に斬りつけたあげくに切腹させられたという話があり、名優と最良の観客と評されたようだが、やはり、アホな観客としか言えないだろう。

 「私は常にウソを言う」と言ってる人は、本当のことを言ってるのだろうか、それともウソを言っているのだろうか。これもよくあるパラドックスだ。「私は常にウソを言う」というのは言語上の次元、「と言ってる人」というのは言語外の次元、違う次元での「ウソ」と「言う」を同次元に扱うからパラドックスに見えるだけ。

 1703年1月30日(元禄15年12月14日)に旧赤穂藩の浪人が吉良義央の屋敷に討ち入って、討ち果たしたことは事実らしい。同時代の史料の研究等の結果、そういうことらしい。
 ここまでは「歴史」という次元の話だ。
 この事件を元に、人形浄瑠璃、歌舞伎が作られ、さらに映画やテレビドラマも作られている。これらは、もちろんフィクションである。ここで「物語」という次元になる。
 さらには、これらのフィクションに関連した別のフィクションが作られる。例えば、東海道四谷怪談とかだ。お岩さんあたりになると、もはや「歴史」とは無縁だ。
 
 動物行動学者のドーキンスという人が進化論の考え方として、生物の種や個体ではなく、遺伝子単位で淘汰を説明しようとした。この段階では、科学の体系に載った仮説である。
 ところが「利己的な遺伝子」という擬人化した表現を使ったことや、竹内久美子という人が、この仮説を誇張して表現した読み物がヒットしてしまった。
 歴史小説は、歴史の研究成果を応用し則ってはいるが、あくまでフィクションだ。同じように、「科学の読み物」というのは「教科書」ではなく、創作されたエンターティンメントだ。「科学」という次元に含まれるものではない。竹内氏自身も「一種のジョーク」と言っている。
 ところが、竹内氏の創作を「事実」として、新たな話が作られるのだが、こうして、当初のドーキンスの「科学の体系」や「仮説」からはどんどん逸脱してしまう。まるで、伝言ゲームだが、単に出発点がそうだったからという理由で「科学的」ということになるらしい。「四谷怪談」が歴史物語に分類されているようなものだ。

 いわゆる「トンデモ系」というのは、この「次元の逸脱」による「伝言ゲーム」を応用していることが多いようだ。何万円振り込めという伝言でも信じ込む人がいるわけだから、おかしな伝言でも信じる人はいるわけだ。
 アホに対してアホ芸というものが出来るように、「トンデモ系」の皆さんより、さらに「次元を逸脱」すると「トンデモ芸」というのが出来るのじゃないか。最近、そういうことを思っている。

 「皇統Y染色体理論」というのも、「物語」の次元に「科学」を持ち込んだわけで、絵に描いたバスのクイズに「紙に描いた絵は動かない」というアホと一緒だし、当然「そもそも皇統がフィクション」という科学的検証により反撃されるわけだ。そして、アホに対するアホ芸として「アニキャラ天皇」説、「財団法人・天皇」説というのを他のblogのコメント欄で書いてみたら賛同者もいたようだ。
 そのうち、Rh型性格学、HLA型性格学とかも作ってみようかと思う。

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Commentaires

おもしろいっ。

Rédigé par: まきこ(他のblog) | 04/12/2005 09:25

 職業柄、竹内久美子については正直迷惑してます(笑) 本人が思っているほど高度な芸を持ってないというのが一番の問題で、そのせいで「くだらん本読ませやがって!」と怒る人か真に受けてしまう人しかいないことになってます。真に受けている人は、身近では見たことないですが。

 でもって、今Y染色体説に対して、ミトコンドリア説を立花隆大先生が唱えている模様です。すごいトンデモですよ。

Rédigé par: コバヤシ | 04/12/2005 13:01

 つまり竹内久美子って超能力者みたいなもんですか?
 手品だとわかって「くだらん芸を見せやがって!」と怒る人か、真に受けてしまう人しかいないことになっている。
 立花大先生のアマテラス・ミトコンドリア説は、面白い芸だと思うのですが、真に受ける人もいそうな昨今の状況ですね。
 男系説として、女系より男系の方がDNA鑑定のなかった時代にはフィクションが作りやすかった。つまり「御落胤話」はイッパイあるのに、逆はめったにない。だから男系の方が継承が確実だったという説もあり、かなり説得力があると思うのですが、あまり普及してません。

Rédigé par: 南郷力丸 | 04/12/2005 19:02

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