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11/01/2006

そして伝説が

 時々、天皇の後継問題に触れている。このblogでは政治的な問題に触れるつもりはない。なのに触れる場合は、問題そのものではなく、関連した「コミュニケーション」や「文化」の問題に興味を持った時だ。
 天皇の後継問題に触れるきっかけになったのも、Y染色体云々という「お笑い」ネタがなぜに流行るかという疑問からだった。だから、「男系維持」か「女系容認」か「やめちゃえ」を書いているつもりも、書くつもりもない。
 「存在」と「当為」の混同をせずに意見を主張する人、混同に気付かないで主張する人、そしてY染色体云々とか言い出すトンデモさん。こういった階層化に興味を持ったため、その「論理」や「説得力」の混迷ぶりの感想を書いているのだ。

出発点
 自分はこう思っている、と書くだけなら、どんなご意見でもいい。ヲシテ文書を根拠にしようが、Y染色体を取り上げようが勝手に思ってりゃいい。でも、その意見によってコミュニケーションを行おうとか、こうすべきという意見を表明するには「客観的事実」か「共通の認識」を出発点にする必要がある。
 天皇に関わる人、つまり日本国民の間に、天皇の地位に関する「共通の認識」はない。「日本人ならこう思う」というのは「俺は違う」という主張があれば、事実に反していることは明らかだ。そこで、事実の方を否定し「では、オマエは日本人じゃない」「同じ考えだけが日本人」ですますのは、妄想の日本人像の中に閉じこもってるだけで、一般性は全くないので、放置する。

 だから「共通の認識」に代わるものとして「社会的な合意事項」である「主権の存する国民の総意に基づく」を出発点にする他はない。
 この「社会的な合意事項」は60年くらいの歴史しかない一方、「客観的事実」として天皇の歴史は1000年以上ある。ところが、「権力の存する連合国の総意に基づく」「権力の存する徳川家の総意に基づく」「権力の存する藤原氏の総意に基づく」「権力の存する蘇我氏の総意に基づく」と書き換えてみよう。「権力の存する平氏の総意に基づく」安徳天皇は、権力が源氏に移行すると土左衛門になった。
 つまり、天皇自身を含めた「政治権力の在処の意思に地位が依存していた」ということでは、天皇の歴史と同じだけの歴史があるわけだ。もちろん一方的な関係ではなく、政治権力の側も天皇の役割に依存する側面もあるからだろう。
 「主権の存する国民の総意に基づく」というのは、歴史的事実と現代の政治体制の整合ということだ。
 それとも、「国民の総意」に60年の歴史しかないからと否定するならば、蘇我氏を捜し出して、天皇を認定すればいいのだろうか。歴史の長さがどうかというのは事実でしかない、その「歴史」を「伝統」という当為性のある語彙にすりかえるインチキは出発点にならない。
 
 現制度では天皇に政治権力はない。だから天皇自身の意見は影響力を持つべきでない。当事者である天皇家の発言が公表されないのは「自身の問題」であるからではなく、「影響力を持つべきでない」と天皇自身が考えているからだろう。

地位と条件
 「世論が女系天皇を容認している」というのは、天皇の地位の根拠に即しているように見える。「世論」というのは今日の政治権力の根拠だからだ。
 しかし、地位が「国民の総意」に基づくとして、その地位に誰が就くべきかは、政治権力の在処だけを根拠に出来るのだろうか。

 天皇の地位を認めた上で、では、誰が就くかの根拠として認識されているのは、この130年くらいで普及した「皇統」なり「萬世一系」という伝説を背景にしているに違いない。男系だ女系だとか言う意見はあっても、人気投票や入札制やアミダクジという意見はない。血統が条件として最も重要であるというのは、皇統という「伝説」が共有されているからである。伝説というのは「事実」か「フィクション」かは問わない。共有されさえすればいい。
 つまり、天皇の条件は、政治権力を根拠にするのではなく、伝説を根拠とすると、当の政治権力の所在、つまり世論が認めていることになる。
 さらに、皇統伝説では、単に血統のみではなく「男系」も条件になっている。「男系維持」というのは、伝説の部分だけをつまみ食いするな。全体を尊重せよということだ。
 女系容認というのは、天皇の地位に関する「社会的な合意」を、誰が就くかという条件にまで、勝手に拡大しているだけだ。

女系容認に必要なもの
 従来は天皇の条件は「伝説」を根拠にしていたのであるから、「女系容認」ということは、天皇の地位だけではなく、条件も政治権力に従属させるように変更することだ。
 「国民の多くが容認すべきと考えている」ことを女系容認の根拠にするのは、従来の「伝説」の否定であるから、同じように「伝説」に属する根拠である「血統」そのものも再検証の必要があるわけである。
 つまり「皇統」という伝説の中で「血統」のみが当為性を持ち、男系が当為性を持たないことに「説得力」がなければ、「女系容認」という選択肢は「伝説」に反するという点で、人気投票や入札制やアミダクジと並列になるのだ。だから「伝説」全体に当為性を認める人は受け入れられないわけだ。
 男系維持が女性差別であり、現代の倫理に反することは確かだ。だから当為性を認めないのであれば、血統による公的な地位そのものが、同じ理由で当為性を失うわけである。
 茶の湯生け花の類の家元、伝統芸能の一部、八百屋の大将など、血統で決まる(正確には相続で決まる)地位は全て私的なものだ。選挙で同数の場合、くじで決める。現代の倫理を導入すれば、公的な地位においては、血統よりクジの方が優先されているのだ。

 現実に、世論が望めば、天皇の条件も変更可能だ。だから「女系容認」に変更は可能だ。同じように、世論が支持すればジャンケンで決めることにも変更できる。だから「女系容認」の実現には「説得力」は不要だ。
 しかし、従来の皇統「伝説」の解体であるから、「女系容認」に「伝説」との整合性があるとの「説得力」のある説明がなければ、やがて、天皇の地位の根拠にも疑義が生じてくるだろう。つまり「総意に基づく」の崩壊だ。

男系維持に必要なもの
 男系維持というのは、皇統という「伝説」に基づいている。現在、天皇の条件として「血統」が重視されている以上、この「伝説」は、ある程度、共有されているわけだ。
 しかし、その「伝説」は「当為」としても共有されているわけでもない。共有されていれば「女系容認」という「伝説」と異なった意見が多数を占めるはずはないからだ。
 従って、男系維持の主張には「これまでは男系だった」ではなく「これからも男系でなければならない」という「伝説」を普及させることが必要になる。その伝説が共有さえすれば「納得力」の根拠になる。

 ただし、「男系維持」は、現時点では、天皇の該当者がいなくなることを意味する。「男系維持」は「伝説」が根拠であり、その「伝説」上は正当な該当者を、江戸時代以前の天皇の子孫から選ぶことは可能だ。もしくは、直系女性皇族の配偶者がそうである偶然性を期待したり、「伝説」は事実である必要はないから系図を創作して「実は」ということにしてもいい。第二、第三夫人という方法もある。
 ただ、そのような対策は、現代社会の価値観とは共存し難い。過去の価値観で作られた「伝説」を根拠とする以上、当然のことなのだ。つまり「納得力」を期待するには「伝説」が共用されることが必要であり、それは、その伝説が現代社会での価値観と相容れないことも共有されてしまうことになる。


 以上は、私から見た「女系容認」と「男系維持」の違いの在処だ。他にも論理の立て方があるだろう、異なった選択肢もある。
 でも、現時点の天皇の後継問題は、天皇の地位が政治権力に依存するという「客観的事実」と、皇統という「伝説」をどれだけ共有できるかを出発点にしていることは確かだろう。

 秋篠宮と愛子のどちらを優先すべきという論議はないし、女帝を認めた場合には、女系か男系かが分かれるのは、まだ生まれてもいない子の代のことだ。つまり、具体的事例を想定した問題ではなく、制度の当為性の問題ということも確かだから、今の天皇個人や後継者個人への評価は論議に必要ない。
 天皇家自身が決めればいいというのも、皇統「伝説」を自分は共有しないということにおいて、女系容認や天皇制廃止と同じことだ。
 「べき」であることを主張しなければ無意味であるのに、ひたすら「であった」の繰り返しに終始しているのも滑稽に見える。
 Y染色体という生物科学の概念を持ちだして来るのは「伝説」の否定にしか寄与しない。後継問題に一切の発言をしていない天皇自身が、唯一、反論するとしたらこの話かもしれない。天皇としてではなく、生物学者として。
 さらには、皇統伝説よりもはるかに共有されてもいなければ、その可能性もない伝説を持ち出して来るのも、どういう意味があるんだろうかと思ってしまう。

 主張に「説得力」を持たせること、相手に「納得力」を持たせること、そういう視点ではなく、ある問題に自分の思っていることを並べるだけというのをよく見かける。もちろん、このエントリーもそうだ。だから、最初に意見の表明ではなく、感想だと述べている。でも、意見のつもりで書いてる人もいるようだ。

 「女系容認」であも「男系維持」でも、その意味するところが向かう着地点が同じということや、いずれであっても自分と等距離であるということで、「説得性」を考える素材として、面白い問題だと思っている。

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Commentaires

「主権の存する日本国民の総意に基く」
というのが今イチピンとこなかったりしてたんですが、そうですね!
「政治権力」と読みかえると、すごくスッキリと腑に落ちる。

っていうか、読みかえじゃないんですけどね (^_^;)。
勉強になりました!

Rédigé par: アキラ | le 13/01/2006 à 13:29

 その「腑に落ちた」というのが、ひょっとして「気をつけないとね」ってことかもわかりませんよ。
 というのを、今、考えてます。

Rédigé par: 南郷力丸 | le 13/01/2006 à 20:40

うっ、確かに・・・(^_^;)。
ま、でも「ある角度から見るある見え方」が理解できた、わけですし。
む〜、その「理解できた」が、「きをつけないとね」なんですかね。

新エントリー、期待してます。

Rédigé par: アキラ | le 14/01/2006 à 09:44

> その「腑に落ちた」というのが、ひょっとして
>「気をつけないとね」ってことかもわかりませんよ。
> というのを、今、考えてます。

詳細希望。
#腑に落ちるって表現大スキー

Rédigé par: ロスト | le 14/01/2006 à 09:54

 そんなたいしたこと考えてるわけじゃないです。人は、自分が解釈したいように解釈するんだ。。。という当たり前のことなんです。
 それは、当然として、自分は解釈したいように解釈したが、それは他人の解釈とどう違うか、どうやってチェックしたらいいのだろうか。ということがスッキリせんのです。

Rédigé par: 南郷力丸 | le 14/01/2006 à 20:19

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