メモをめぐって
今頃、くだんの新興宗教に関するとんだメモの件である。新興宗教の嫌いなオマエが「とんだ」とは、と思う人も多いだろうけど、面白くないメモだ。
多くの「専門家」は従来からの説が裏付けられただけと言っている。そうだと思う。けれども、反応が面白くないのだ。「A級戦犯」というか「イ項の戦犯」さえ削除すれば、天皇が参拝してもいい、という反応なのだ。
独立した宗教法人が誰を祀ろうが勝手だ。その宗教法人をどう思おうが「内心の自由」だ。小泉は、参拝しようがしなくいのも自由だと言っている。一般の人なら自由だろうが、公的な地位の人間は「内心は自由」だが「行動の自由」は制約されるという考えもあるのだ。
だから、「A級戦犯」の名前が削除されても、天皇家の祭祀でもない、文化財でもない、歴史的伝統ももなく慣習化もしていない新興宗教に、日本国の象徴が参拝しちゃいけないだろう。慰霊するなら、公的行事として行うか宮中賢所ですべきだろう。だから、1975年まで参拝していたこと自体がおかしいわけである。
ところが、合祀したから参拝していないというメモの報道以来、「A級戦犯」合祀を削除すりゃ、天皇が参拝してもいいようなことを言う人がいる。
まだ、政治問題化したから参拝していないという解釈もできた方がましだと思う。なら、常に政治問題にしておけばいいわけで、誰が祀られようが、憲法違反の疑義がある以上、政治問題であり続けるからだ。
だからといって、メモがあって、定説が裏付けられた以上はしようがない。昭和天皇は「A級の上に松岡、白鳥」までもが合祀されて行かなくなったとしても、「憲法を護る」と宣言している現天皇は「憲法違反の疑義があると政治問題化している」から行かないという理由であってもいいのだ。
さて、最近、第1次世界大戦の戦後処理が気になっている。というのは、昭和天皇が日米開戦に反対していた、平和主義だったという説を聞いてからだ。別にその説を肯定するとか否定するとかではない。平和主義者という個人的心情に、開戦に反対した理由を求める必要がないように思う、というより、そういう概念が当時にあったのかという気がするからだ。
第一次大戦によって、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国、ロシア帝国がなくなった。ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が亡命してホーエンツォレルン家が倒れる。オーストリアでカール1世が亡命し、ハプスブルク家が実権を失う。トルコ革命が起こりオスマン家が追放される。勝った側でもロシア革命が起こり、皇帝一家は銃殺されロマノフ家は断絶する。
国境線の変更や賠償金もあったが、政治家や軍人の責任が問われることはなかった。ドイツ政府もベルサイユ条約228条によって犯罪人として指名された人間を引き渡すことはなかった。
ということは、日米開戦時点においては、天皇と軍人とでは戦争によって予測されるリスクが全く違うわけだ。その時点で東條は自分が吊されると予測できる材料はない。天皇にはあった。それまでの戦争の結果から予測される最悪の結果は現実の戦後と逆の結果だったのではないかと思ったからだ。ならば、天皇が開戦に反対するのは、その心情によって説明しなくても、皇室存続のための合理的な判断と思える。
個人的な心情という、他人には想像しがたい要素を排除しても、その時点での選択肢と予測される結果を考え合わせ、歴史上の人物の行動を理解することはできると思う。現実に生きていた時代を知っているからといって、自分の思い入れで作りあげた人物像で判断するよりも普遍的だろう。つまらないかも知れないが。
昭和天皇の言動についても、公表されているうち私が読んだ限りでは、自分も当事者というか関与していることについても、常に他人事のような言動をしていると感じる。そういう立場であったからだろう。もちろん、アメリカ軍にとって、対ソ連に最も都合のいいタイミングでポツダム宣言を受諾した理由については、まだ、誰も知らない歴史的事実があるのかも知れないが。
そう考えてみると、かのメモも「個人的な心情を述べた」とは言いにくい。「ココロだ」と書いてあっても、個人のココロというより、自分の地位からの判断を述べただけという気がする。昭和天皇は、個人的な感情を一切、口にしなかったという。かのメモも「感情」ではなくて、自分の地位から見ての各人の行為への評論を述べているだけのようだ。
天皇が「A級戦犯の個々をどのように評価していたか」と「刑死者を靖国神社に合祀することをどのように評価していたか」は、その「対象者への感情」とは無関係に、自身の立場にからの評論をしていたように見える。
だから「A級戦犯合祀に不快感」という見出しよりも「A級戦犯合祀に否定的見解」という方が正確ではないかと思う。わずかな違いであるが、その差がこのメモにたいする様々な反応の「うさんくささ」の原因になってるような気がする。
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