すずがも・八丈・藪鴬


ついでに、Turdus naumanniのナウマンさんはナウマン象のナウマンさんのお父さんで別人。



「ご存じ」というくらいだから「鈴ヶ森」といえばこの芝居というのは広くご存じされてるのだろう。1823年の四世鶴屋南北作の「浮世柄比翼稲妻」の一幕で、幡随院長兵衛が白井権八と出会うと言うだけの芝居だ。私も見たことはあるのだが、どうも印象が薄い。片岡孝太郎の権八を金比羅歌舞伎で見たことくらいしか覚えてない。
むしろ 私の場合は「鈴ヶ森」といえば、義太夫の「恋娘昔八丈」の七段目「鈴ヶ森の段」である。人形浄瑠璃の初演は1775年だから「御存鈴ヶ森」より半世紀ほど早い。そして、この「恋娘昔八丈」の「八丈」というのは地名ではなく織物のことだ。ビロードキンクロというのはビロードのような羽色のキンクロハジロ、それと同じことで、八丈のような羽色のツグミで八丈つぐみ、ということに思い当たって、少しチェックしたというのが昨年の記事だ。

亨保といえば将軍は吉宗。家康が好んだ鷹狩りは綱吉の時代には禁止されていたが、吉宗は鷹狩りを復活し好んだらしい。その獲物としても鳥は重要だったので、鳥についての関心が高まり、町人の間にも鳥のブームが波及していく。
鳥の絵も描かれるようになるし、吉宗には絵画の趣味もあった。しかし、当時のお抱え絵師の形骸化した絵に飽き足らない吉宗であった。それで、清国から1731年に沈南蘋という画家が来日し、2年間滞在し、リアルな鳥の絵の写生を伝えることになった。この南蘋風の絵は、かの伊藤若冲にも大きな影響を与えている。
お熊の事件から約半世紀、安永4年、1775年の夏に江戸で初演されたのが、人形浄瑠璃の「恋娘昔八丈」である。まだ大岡忠相は出せない。この芝居では、店の名は「白城屋」に、主人公の名は「お熊」から「お駒」に変えられている。


そして、お駒が着ていたのも、最後のページの4行目に「重ねて黄八丈。昔語ぞ今ここに」とあるように、モデルのお熊と同じく黄八丈。タイトルにもなってる織物の「八丈」。
この芝居は大ヒットし、翌年5月までのロングランとなる。翌安永5年、1776年には歌舞伎化されて上演される。この年に大流行した風邪、旧型コロナウィルス感染症だったのだろうけど、それが「お駒風」と名付けられたくらいに大当たりする。織物の「八丈」も大人気となったとメーカーのサイトにもある、アメリカが独立戦争をやってた頃、日本じゃ黄八丈が大流行してたわけで、当時の認識としては、「八丈」というのは地名というより、流行りの芝居に出てくる織物のことだったんだろう。

こちらは歌舞伎の「恋娘昔八丈」で、さらに後の幕末の月岡芳年の絵。黄八丈といえば、黄色地の濃色の細い格子が現在では一般的だけど、当時の「八丈」にはこういう色合いが多かったようだ。こういう鳶色がメインのものも含めて、黄色の色を使ったものの総称を「黄八丈」と言ったらしい。
以上のように吉宗の時代のふたつの出来事、リアルな鳥の写生の導入と殺人事件を契機に、半世紀後には鳥見と黄八丈がブームになっていたわけである。
この堀田正敦は、江戸時代の鳥類図鑑として有名な「禽譜」とその解説書「観文禽譜」を編纂し、寛政6年、1794年に一応の完成を見ている。
この「観文禽譜」は国立国会図書館デジタルコレクションで公開されており、「八丈つぐみ」も載っている。

そもそも「八丈島」という地名さえ織物の「八丈」の産地ということで呼ばれたのが由来だとか。
柏書房の「図說・日本鳥名由来辞典」では「はちじょうつぐみは八丈島に住むつぐみの意であろうが、特に八丈島に住むわけではない」とあって、八丈を地名と考えた一般論ではおかしいと読める記述になっている。
それよりも、この本では琉球つぐみもハチジョウツグミとしているけど、「観文禽譜」での記述ではワキアカツグミに近いのが気になった。
他にも、日本で最初にハチジョウツグミが記録されたのは、八丈島ではなく、1857年の函館なので、適切な和名とはいえないという記述まで散見される。その「記録」よりも半世紀以上前からハチジョウツグミと言われてるんだけど。
もしかしたら八丈島で赤鶫が捉えられたという記述がどこぞにあるのかも知れないが、それはアカコッコだし。
阿波座というのは現在も地下鉄の駅名になっている大阪の地名。阿波座烏というのは、「阿波座に住むカラス」でも「たまたま阿波座で捕獲された烏」でもない。大阪の新町遊郭の冷やかし客のこと。「買う買う」と言いながら群れてるからだとか。
吉原雀というのは江戸吉原の冷やかし客。「よしはらすゞめ」というのは、先の「観文禽譜」にも載ってるが「剖葦」つまりヨシキリのこと。



「連子窓の向こうをウロウロしてるから」かと思ったが、客は吉原のように窓越しに相手を選んで入店するのではなく、島原では入店してから別の店から呼んでもらうろいうシステムの違いがある。けれども連子窓があることは確認できた。
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